LONDON LIFE - IN CONVERSATION WITH CHARLIE MONAGHAN

不動産業界で働く人の特徴を、いくつか挙げてみましょう。様々な特徴が頭をよぎりますが、あなたが思い浮かべた特徴のなかに「スタイリッシュであること」は決して含まれないでしょう。そんな私たちにとって、ひどい靴を履いている人と共通の話題を見つけるのは容易なことではありません。だからこそ、The Modern House(ザ・モダン・ハウス)が不動産業界に満を持して登場したとき、私たちはみんな、安堵のため息を漏らしたのです。ついに!デザインを解せる層に向けて、エレガントに撮影された美しい邸宅の販売画像で心を潤す、オンラインの憩いの場ができたのですから。ブルータリズム建築のアパートメント、モダニズムの邸宅、センスのいいキッチンが増築されたビクトリア調の改造住宅など、ここには何でも揃っています。一度も顔を合わせたことのない人たちの、整えられた素晴らしい生活空間を覗き見ることができるのですから、私たちのようなおせっかいな人間にはまたとない、最高の場です。

In Conversation Withのシリーズ第3弾となるこのストーリーでは、The Modern House(ザ・モダン・ハウス)のエディトリアルとブランドの責任者、チャーリー・モナハン氏と街をそぞろ歩きます。モジュラーワードローブの愛用者で、スタジオニコルソンの良き友人でもある彼が、SN(スタジオニコルソン)コミュニティの一員となったのは、数年前にスタジオニコルソンのファウンダー、ニック・ウェイクマンをイーストロンドンのニックの自宅でインタビューしたことがきっかけ。それは、素晴らしいインタビューでした。

これまでの特集に倣って、インタビューイーがインタビューの場所を選びます。初春前の爽やかな散歩がてら、チャーリーは私を街の中心部まで連れて行ってくれることに。低い太陽がビル群にドラマチックな影を落とすなか、高層ビルを見上げながら2万数千歩ほど並んで歩いたところで、私たちはよりロンドンらしい伝統的な美しさが際立つスピタルフィールズへと向かいました。

"I remember going to gigs or shopping on Brick Lane and feeling genuinely excited to discover the city I’d lived in my whole life"

チャーリーは生まれも、育ちもロンドン。ロンドンチューブ、ノーザン線の終着駅として広く知られる、ハイ・バーネットで育ちました。世界有数の規模を誇る忙しない大都会で育った生粋のロンドンっ子らしく、チャーリーはサイレンの音にも動じず、道ゆく人も難なく軽やかにかわしながら「スクエアマイル」(ロンドンの愛称)を歩きます。私はまずチャーリーに、大都市で幼少期を過ごした経験について聞きました。「僕が育ったハイ・バーネットは郊外にありますが、ロンドンの外でも、中でもない境界線上のような特別な場所です。そこでは、少し不思議な感覚を呼び起こされた記憶があります。ハイバーネットにいる僕はロンドンの外の人間なのに、同時に中からロンドンを眺めているような感覚に陥るんです。ロンドンの郊外で育った多くの人たちがそうであるように、10代になると閉鎖されたような環境から解き放たれ、一人で、あるいは友人と街のいろいろな場所に繰り出すようになります。そのころは、ライブへ行ったりブリックレーンで買い物をしたりして、ずっと昔から自分が住んでいた街を再発見しながら、純粋に興奮したのを覚えています。

ロンドンが(そしてイギリスが)秀でているのは、そのサブカルチャーだと僕は思うんです。パンク、ニューロマンティック、ゴス、グランジ、モッズ、レイブやインディーなど、音楽やファッションとアートが一丸となって、さまざまな時代を象徴してきた、長く豊かな歴史があります。ロンドンに住んでいれば、意識的にそれらを体験しなくても、自ずとそういった瞬間やその遺産を感じる事は避けられないと思います。その意味で、僕は時折ロンドンで育ってこなかった人たちがうらやましい、と思うことも実はあるんです。ここで生きるということは、それだけで大きな意味を持ち、この特異な体験から必然的に多くのものを生み出すことになります。僕の場合、ロンドンで生活することが当たり前になっているので、無限の可能性を秘めた巨大な文化的都市に来た!というロマン溢れる感覚を持ったことがないんです。」

私たちはリバプール・ストリート駅を通り過ぎると、グレードIに指定された、リチャード・ロジャース設計によるブレードランナー風のロイズビルへと向かいます。ここはチャーリーのお気に入りの場所なのですが、空から降ってくる人の視線に耐えなければならず、息つく間もなくたくましい警備員達が迫ってくるので、チャーリーのポートレートを撮影するのに最適な場所を、急いで決めなければならない状況に。そこで、カメラマンのジュヌヴィエーヴはむき出しの階段とガラス張りの外部エレベーターが印象的な構図で、手際良く私たちをフレームに収めてくれました。ロイズビルは「内側が剥き出しになった」未来派を代表する建築の一つとして、1986年に完成にした古い建築物ですが、ロンドンのスカイラインを象徴する存在として欠かせないランドマークです。

私はチャーリーに、インタビューの場としてなぜこの街を選んだのか、聞いてみました。「ロンドンついて考えるときにまず捉えなければならないのは、ここは様々なものが入り混じった都市だということ。僕がインテリアに惹かれる感覚は、まとまりやシンプルさ、一貫性といった要素に共鳴するためですが、僕が都市に求めるのは実はそれとは正反対の要素です。複雑で重層的なもの、新しいものと古いもの、異なる多様な文化、多様な食べ物など、まさに多種多様な要素が入り混じった、ミックスバッグのような街を好みます。それは例えば、南アジアのコミュニティが活発なブリックレーンのような、コンクリートと鉄の街。あるいは、もはや何の街なのかよくわからないほどに進化した、ショーディッチ。ここは、ロンドンの多層性がありのままに現れている地域だと思います。そして、18世紀の家屋とガラス張りの高層ビルが隣接する、フォーニア・ストリートなど。これらの地域から、決して停滞することなく、進化し続けることこそがロンドンの良さだと再認識させられます。」

"It’s a reminder that what’s good about London is that it never stays still and keeps evolving"

チャーリーはかつて、ブリストルで古典を学んでいました。ブリストルでの連日のパーティと大学の最終試験が終わると、彼はすぐにロンドンへは引き返さず、海外での生活に憧れて、日本へ向かうことになります。そこでチャーリーはいわゆる「英会話教室」で英語教師として勤めることに。「僕はきちんとした人生設計を立てたことがありません。衝動と直感で全て決めてきました。日本で過ごした1年間は、素晴らしい経験となりました。たくさんの本を読み、映画を見て、週末はギャラリーや美術館へ足を運びました。街を出て、日帰りでハイキングや食事、温泉巡りなどもしました。日本の人々の振る舞いや、礼儀正しさ、穏やかさ、自然へ向ける特別な視線など、そのすべてに僕は魅了されました。完成度の高さや細かいディテールを重視して、(少なくとも建築においては)過度に装飾的な要素を排したスタイルで、美意識とデザインに対する鋭い感覚が際立つ場所だったのを記憶しています。」

帰国後、チャーリーはMonocle(モノクル)に短期間所属。初めての「まともな」仕事で少しずつ、呼吸をするように学びました。ここでは広い視野を持つことや、語り口の重要性を学びましたが、それ以上に、自分の確たる視点を明確にすることこそが、溢れる情報から発せられたあらゆるノイズを切り裂いて、現代メディアの世界において聴衆を引きつける方法であることを理解しました。ここでの経験は、ザ・モダンハウスでの次のステップに向けて、素晴らしいトレーニングの場となりました。私はなぜ、ザ・モダンハウスがここまで人気なのか、チャーリーに聞いてみました。「それが、本物であるから」と彼は答えて、こう続けました。「ザ・モダンハウスの創業者、マットとアルバートは前職でWorld of Interiors(ワールド・オブ・インテリア)やWallpaper*(ウォールペーパー)などの出版物や全国紙でデザインエディターとして活動していました。2人は建築やデザインと、優れたストーリーテリングを愛してやまない2人だった。だからこそ、販売用の住宅についても雑誌に掲載されるような美しい写真に合わせて、細かい調査と優れた説明文を書き、編集することを思いついたのです。

そしてまた、この業界のハードルが低かったことも僕らの救いとなりました。不動産業者は、最も信頼されていない職種のひとつです。また、その金銭的な価値を超えて、私たちの生活にとって重要な価値を持つ住宅の分野は、残念ながらマーケティングの配慮に欠け、プランニングのレベルも歴史的に見ても、かなりひどい。僕らは、考え抜かれたデザインを持つ住宅はそれ相応の価値があり、住む人の生活を向上させると心から信じていますし、僕たちの作るコンテンツはそれを体現しています。僕らがストーリーを作りあげるなかで、新たに出会い、特集を組んだ特別な人たちの存在も原動力となります。建築、食、デザイン、ファッション、アートなど、さまざまな分野の才能ある人たちと話をするのは、これ以上ない仕事だと僕は思います。彼らから学び、彼らの話を聞き、彼らの視点を得て、彼らにとっての家とは何かを知ることができる。こうして、決して色あせることはない、大切な価値を伝えていくのが僕の仕事です。」