STUDIO PIN UPS

日々私たちが目にするイメージは、デザイナーのクリエイティビティーを如何に刺激するのでしょうか。このインタビュー記事では、スタジオニコルソンのファウンダーでクリエイティブ・ディレクターのニック・ウェイクマンを惹きつけてやまない様々なイメージを紹介し、それらが彼女のデザインを方向付け、形になるまでのプロセスを紐解きます。新たにシリーズ化されることになった今エディトリアルでインタビューのテーマとなったのは、コレクション準備にあたって、ニックが作り上げたムードボードです。ここには、スタジオニコルソン24年秋冬シーズンの幕を開けを強く印象付けた様々なアイテムの土台となったイメージが、ずらりと並びます。
(左から右へ順に)
1.「どこかの空港でキャッチされた、俳優のアレック・ボールドウィンとキム・ベイシンガーです。私は二人が羽織る重厚感たっぷりのリラックスした黒いコートに、強く惹かれました。不思議と私の頭の中ではこのコートの黒色が、濃いネイビー色に変換されるんです。そしてこの写真のキム・ベイシンガーによる、ベビーブルーのカシミアブランケットの持ち方にも打ちのめされました。これぞブランケットの使い方、と言える出で立ちで、素晴らしいです。この黒いコートは、かつてのアルマーニによるものだと思いますが、もちろんスタジオニコルソンでも今シーズンは、メンズとレディース共に身体が中に埋もれるような、絶妙なサイジングのコートをデザインしています。レディースではWeir、メンズではCoverがそれぞれ登場しています。」
2. 「これは世界中の写真の中で、私が最も好きなイメージと言っても過言ではありません。建築家の安藤忠雄氏と彼がリードするチームの写真で、1989年に撮られたものです。安藤さんがはいているブラックデニムが実は私は大好きで、ここからインスピレーションを得て、ウォッシュド・ブラックとウォッシュド・ブルーの2色で展開する新しいデニムRisoが今シーズン新たに誕生しました。安藤さんのゆったりとしたブラウスライクなシャツは、ヨウジ・ヤマモトのものでしょうか。写真の隅に写る、ブルージーンズに黒いTシャツを合わせ、少し変わったハーフスリーブのテーラードジャケットを羽織った男性の佇まいにも、とても惹かれます。これらのイメージの表面的な要素はさておき、チーム全体が笑顔でポージングするこの写真には心地よいポジティブな空気が流れていて、私は特にこの本質的な空気感に魅了されるんです。スタジオニコルソンのチームを写したら、被写体全員がこの写真のようにモチベーションの高い、誇らしげな表情をしていることでしょう!そんなことに考えを巡らせる時間が好きです。」
3. 「これはガス・ヴァン・サントの写真集『108 Portraits』からピックアップした一枚です。『108 Portraits』は私の大好きなの作品のひとつで、繰り返し手にとって開く本です。ここには言葉にできない力強いムードが漂よっています。このイメージでは、被写体の男性が何を着ているか、ということはさしずめ重要ではありません。こういったストライプ柄は、今後のコレクションにもぜひとも取り入れて行きたい柄ですが、この写真で私が特に惹かれるのは、彼の表情なんです。とても生き生きしているというか、気分がハイになっているというべきか、とにかく観るものを強く引きつける何かがここにはあります。」
4.「こちらも空港でパパラッチされた、俳優のジェニファー・アニストンの写真です。私がこのイメージに惹かれるのは、彼女がとてもカジュアルな出たちで写っているから。ちょっとハズした厚手のニットに、細身のスノーパンツを組み合わせているのがいいんです。これはマハリシのスノーパンツで、おそらくSサイズだと思います。 スタジオニコルソンでもメンズのスノーパンツを作っていますが、私も今年はこのパンツを穿き倒すつもりです。皆さんもご存知だと思いますが、スタジオニコルソンでは女性がメンズのパンツを穿くことはもちろん想定済みです。」
5. これは昔のマルタン・マルジェラのポートレートです。マルジェラの体を優しく包みこむモヘアのセーターが印象的な一枚ですが、スタジオニコルソンの最新の撮り下ろしでも、パテ色が美しいモヘアセーターのVicoが繊細な空気感を演出しています。柔らかなセーターを着用するこのマルジェラのイメージからは、どこか少しパンクな、多数に迎合しない姿勢を汲み取ることができます。また、彼の人物像を際立たせるこの写真の背景も素晴らしいと思いませんか。古き良きパリのタバコ屋かどこかのカフェかのようなセッティングで、マルジェラがゆっくりとカフェ・クレームを楽しんでいるように見えます。スタジオニコルソンは、ピンクの服を着た男性が大好きです。これはきっと今後も揺るがないブランドの一貫した感性です。」
6. これは、俳優のミシェル・ファイファーが煙草を吹かすワンシーンです。この写真に写るすべてが、1990年代風。中でも特に私を魅了するのは、彼女が着用するオンブレチェックのシャツです。スタジオニコルソンのメンズコレクションでも今シーズンは、オンブレシャツのヴァリエーションを展開していますが、コレクションの中で特に注目して欲しいのは、俳優のリヴァー・フェニックスを想起させるチェック柄のシャツです。私はきっと、あのチェック柄のシャツはチェック柄のアウターではなく、無地のコートにすっきりと合わせると思います。ただ今期は、グッと目を引くプリンス・オブ・ウェールズ・チェック柄のジャケットやコートも何着か出ているので、冬にチェックのアウターを着込むのを今から楽しみにしています。このイメージをじっくりと眺めていると、ここに写るファイファーのように髪を整えずに外出できた頃は、今と違って自由な、素晴らしい時代だったことを思い返します。そしてファイファーと言えば、映画『What Lies Beneath』でのスタイリングやワードローブが素晴らしかったことも蘇ってきます。
7. このイメージの主役は、ナイロンジャケットです。私はナイロンジャケットほど便利なアイテムはないと日々実感していますが、スタジオニコルソンのメンズで展開するオーバーサイズのフード付きパーカー、Lessenも同様に究極の利便性を誇るアイテムです。この写真は、昔のパパラッチが撮ったような構図が目を引きますよね。誰もがソーシャルメディアで承認欲求を満たすために、ポージングを繰り返す私たちの時代。そんな時代だからこそ、この写真のように誰かが身を隠す仕草はとても新鮮にうつります。
8. この写真は、素敵な髪と素晴らしいセーターがまるで奇跡のように完璧に組み合わさった、とても美しいシチュエーションを切り取った一枚です。このイメージは、ドイツ出身の写真家、インガー・クラウスの作品集『Portraits』からピックアップしたもの。素敵ですよね。私はこういった、強い印象のケーブルニットが大好きで、スタジオニコルソンでも、今シーズンはメンズとレディース双方で打ち出しているアイテムです。
9. 「私にとっての、男の中の男。それがこの写真の被写体、俳優のハリソン・フォードです。彼の穿くジーンズを見てください!私は密かに、彼のキャップのNはニックの頭文字の‘N’なのだろう、と妄想するのが好きなんです(笑)。このジャケットのフォルムは絶妙ですし、完璧にマッチした眼鏡にも目が行きます。そして男の中の男、ハリソンが手に持つのは明らかにチャイニーズフードのテイクアウトです(笑)。彼の着用するデニムが素晴らしいのは、その膝のカーブと足首にかけての細い絶妙なライン。私はこのパンツが大好きです。」
10.「とてもシンプルな写真ですが、このデニムパンツは私を魅了して止みません。非常に浅いフライ部分や、独特なライズのとりかた、そしてポケットの出方が素晴らしいです。このパンツにあえてブーツを合わせて、肌をほんの少し露出することで醸し出されるセクシーな雰囲気がたまりません。ここに写るすべてにインスパイアされます。」