AUTUMN 24 COLLECTION

「服、それは私たちの感覚にいかに作用するか。この服をきたら、どんな気分になるでしょうか。こういった視点を私はとても大切にしています。」と、スタジオニコルソンのクリエイティブディレクターで、ファウンダーのニック・ウェイクマンは言います。「私たちは、多様な服が巷に溢れるように並ぶ時代を生きています。だから、誰しもがそれなりのスタイリングである程度のまともなルックを組むことができます。でも、一点一点のガーメントを改めて良く眺めてみてください。それらは、あなたをどんな気分にさせるでしょうか。」ウェイクマンのデザインに対する素材へのこだわりは、こういった思考に支えられています。そして、彼女のデザインをきちんと見ると、実はこの考え方が透けて見えてきます。
「2024年オータム・コレクションのスターティングポイントは、まさに素材から。コレクションを構成するそれぞれのファブリックが強い個性を持ち、それらが感じられるようにデザインしなければならないと考えたのです。スポンジのような素材、光沢のある素材、質感が引き立つ素材、あるいは騒がしさを感じる素材など、全てにおいて主役級のファブリックをピックアップしました。」と彼女は語ります。ウェイクマンはまた、ファブリックが思い起こす時代やムードにもこだわりました。「今回は特に日本の1990年代のファブリックを深く掘り下げました。プロジェクトを進めるにあたって、コム デ ギャルソンや、ヨウジ ヤマモトなどのコレクションが頭のどこかにありましたね」。
スウェーデンのストックホルムで撮り下ろされた、今シーズンのコレクション。今季の服のさまざまな質感や、形、ラインが引き立つための背景として取り入れられたのは、打ちっぱなしのコンクリートや、1950年代らしいブルータリズムの建築物、個性のある窓など。全て、ウェイクマン自身とチームによって、探し当てられたストックホルムの街の質感です。「私たちはミニマルなブランドではありません。」こう公言するウェイクマン。「私たちはあくまでクラシックを掘り下げて、それをモダンに再解釈することに挑んでいるんです」。と続けます。撮影では今回がデビューとなる、レザーバッグの新たなコレクションも合わせて披露されていますが、どれもこれもスタジオニコルソンのルックにふさわしいアイテムです。無駄がなく、目を引くためだけの小物と一線を画すバッグたちは、ルックのアクセントとなるようデザインされていますが、その機能にも抜かりがありません。
スタジオニコルソンのレディ・トゥ・ウェアの要とも言える、ウェイクマン自身が愛用する英国産の強撚軽量トロピカルウールをご存知でしょうか。しわになりにくいうえに、通気性が良いため、季節を超えたワードローブ造りに理想的な素材です。体への締め付けを一切排除し、メンズやレディースの垣根を超えたスタジオニコルソンらしいテーラリングやスーツを組むための最適なマテリアルとして、その特性を生かしながら、これまで取り入れられて来ました。パッチポケットが引き立つソフトブレザーや、プリーツフロントパンツなどで皆さんも目にしてきた、あの素材です。今シーズンではさらに幅を広げて、シャツやトップス、レディースのショートパンツや、メンズのコーチジャケットでも使用されています。
そのほか24年オータムコレクションで特に目を引くのは、ウェイクマンが「大理石を連想させる」と形容し愛する、滑らかな質感がひきたつ素材たち。ユニセックスで展開し、ドロップショルダーとドローストリングのフードでややオーバーサイズ気味にカットされたシルエットが特徴のレインジャケットには、parchment色が美しい、撥水加工が施されたコットンのボンディング生地があてられています。他にも、注目のアノラックとして登場するのが、メンズのThe Lessen。スタジオニコルソンで初となる、異なる2種の生地をミックスして制作されたアイテムです。しわ加工が施された撥水のナイロン製の身頃に対し、襟とポケットフラップにあしらわれたコットンツイルとのコントラストが映えます。

「私たちはあくまでクラシックを掘り下げて、それをモダンに再解釈することに挑んでいるんです」。

「大理石のような」素材感はレディースコレクションでも大々的に取りあげられ、スポーティーなポリエステルで組まれたアイテムや、スポンジのような仕上がりが印象的なガーメントが展開します。ボクシーなIdroセーターや、バルーンレッグが特徴的なMouraパンツ、心地よくバランスの取れたオーバーサイズの半袖ニットMataなど。他にも、レディースコレクションの鍵となるのは、リネンライクなツイル素材です。オーバーサイズの長袖シャツWiltonから、ボリューミーなパンツDordoniや、肩のカットアウトディテールが印象的なミモレ丈のAラインドレスBarrまで、様々なスタイルで展開します。
さらに特筆するべきは、今季よりスタジオニコルソンのメンズに新たに加わった素材で、しわ加工が施された日本製のデニムです。黒と白の2色で展開し、ボリュームパンツとボクシーなジャケットの2種で扱われているデニム。その 「心地よい、光沢感のある仕上がり 」をウェイクマンは高く評価します。このほかも、今シーズンのメンズとレディースのシャツには、ゆとりのあるシェイプと落ち着いた色調で、風合いを感じる素材のヴィンテージなストライプ柄が登場。スタジオニコルソンのアウターウェアの定番として広く愛されているレディースのトレンチとメンズのボマーの2型も、この秋アップデートしました。オーバーサイズのダブルブレストトレンチ、Mawerには撥水加工のコーテッドコットン素材が加わり、メンズのPistonにはブラックのラムレザーも新たに登場しています。加えて、今シーズンのシューズにも、スタジオニコルソンの様々なシグネチャースタイルが、季節を超えた淡いカラーミックスで立ち上がっています。ハイライトとして挙げられるのが、マーブルレザーに包まれてお目見えしたDonovanとSpring、そして雨の日のグレーを彷彿とさせるスエード素材で登場したWearingです。


ウェイクマンがことあるごとに振り返ってきたのは、1992年に第一版が出された、ガス・ヴァン・サントの写真集『108 portraits』です。「私が繰り返し手にとって眺めるのが、この写真集なんです。それは服がたくさん載っているからではなく、ここには人の顔がたくさん載っているから。直接的なインスピレーション源とはなりませんが、実はここにはインスピレーションとなりうる要素がそこかしこに散りばめられているんです。この作品に触れることで、私は夢を見ることができるんです。」と彼女は言い、こう続けます。「私にムードを与えてくれる作品、と言えるでしょう。」今シーズンから24年冬にかけてのウェイクマンのデザインには、こういったヴァン・サントのムードと、彼がディレクションした映画『マイ・オウン・プライベート・アイダホ』(1991)の要素が静かに凝縮されています。
スタジオニコルソン24年秋のカラーパレットには、メンズとレディース共に、airforce blue(エアフォースブルー)、asphalt(アスファルト)、black grape(ブラックグレープ)、bone grey(ボーングレー)、butter(バター)、dark fir(ダークファー)、darkest navy(ダーケストネイビー)、espresso(エスプレッソ)、fossil(フォッシル)、glacier(グレーシャー)、gull grey(ガルグレー)、peanut(ピーナッツ)、plaster(プラスター)、tan(タン)、tarmac(ターマック)が並び、スタジオニコルソンらしい世界観が表現されています。